残暑の食中毒にご用心!
気温が下がっても油断できないウェルシュ菌・セレウス菌対策
残暑の涼しさに油断していませんか?実はこの時期、ウェルシュ菌やセレウス菌による食中毒が多発します。飲食店や食品事業者が知るべき原因と、明日から実践できる具体的な対策をプロが徹底解説。お客様とお店の信頼を守る秘訣がここにあります。
目次
はじめに:秋風に油断は禁物!忍び寄る「残暑型食中毒」の恐怖

うだるような暑さが続いた夏のピークが過ぎ、朝晩には涼しい風が感じられるようになる9月から10月。厨房に立つ皆様も、少しだけホッと一息ついている頃ではないでしょうか。「よし、これで食中毒のリスクも一段落だな!」…もし、そう思っているとしたら、それは非常に危険なサインかもしれません。
実は、気温が下がり始めるこの「残暑」の季節こそ、特定の食中毒菌が活発に動き出す、いわば「第二の食中毒シーズン」なのです。お客様の足が遠のく真夏を乗り越え、これから年末に向けて売上を伸ばしていきたい大切な時期。ここで万が一の食中毒事故を起こしてしまっては、目も当てられません。
なぜ涼しくなっても食中毒は減らないのか?
不思議に思いませんか?食中毒といえば「真夏」のイメージが強いのに、なぜ秋口にも注意が必要なのでしょうか。その理由は、大きく分けて2つあります。
一つは、「気の緩み」です。真夏の間は誰もが衛生管理に最大限の注意を払っています。しかし、涼しくなってくると「まあ、これくらいの時間なら常温で置いておいても大丈夫だろう」といった油断が生まれやすくなります。この小さな油断が、思わぬ事故の引き金となるのです。
もう一つの理由は、「菌の性質」です。夏の食中毒の代表格である腸管出血性大腸菌(O157)やサルモネラ菌とは少し性質が異なる、この時期に特に活発になる菌が存在します。彼らは、真夏の菌とは違ったアプローチで私たちに襲いかかってくるのです。
夏の主役とは違う!この時期に警戒すべき2つの菌
では、その残暑の季節に警戒すべき菌とは一体何者なのでしょうか? 今回、皆様にぜひ覚えていただきたい菌が2つあります。その名も、「ウェルシュ菌」と「セレウス菌」です。
どちらも土の中をはじめ、野菜、魚、肉などの食料に広く存在するごくありふれた菌ですが、ひとたび食品の中で増殖すると、厄介な食中毒を引き起こします。特に、飲食店や食品工場のように、一度に多くの食事を調理する環境では、大規模な食中毒事故につながる危険性を秘めています。
このコラムでは、飲食店経営者や料理長、食品メーカーの皆様が、この「ウェルシュ菌」と「セレウス菌」からお客様とお店を守るための知識と具体的な対策を、事例やクイズを交えながら、どこよりも分かりやすく解説していきます。さあ、一緒に見えない敵の正体を暴き、万全の対策を講じていきましょう!
犯人はこいつらだ!ウェルシュ菌とセレウス菌の正体
まずは敵を知ることから始めましょう。ウェルシュ菌とセレウス菌は、どちらも「芽胞(がほう)」という特殊な形態を作る能力を持っています。この芽胞が、彼らを非常に厄介な存在にしているのです。
芽胞とは、菌が自分にとって都合の悪い環境(高温、乾燥など)になったときに作る、硬い殻に閉じこもった「種」のようなものだとイメージしてください。この状態になると、通常の菌なら死んでしまうような100℃の加熱にも耐えることができます。そして、生き延びた芽胞は、自分にとって快適な温度(例えば、調理後にゆっくり冷めていく過程の温度)になると再び発芽し、猛烈な勢いで増殖を始めるのです。
「給食病」の異名を持つウェルシュ菌食中毒- 大量調理の落とし穴
ウェルシュ菌による食中毒は、カレー、シチュー、煮込み料理、スープなど、大鍋で大量に調理し、作り置きされる料理で発生しやすいことから、別名「給食病」とも呼ばれています。
とも呼ばれています。酸素が苦手な「嫌気性菌(けんきせいきん)」であることです。寸胴鍋のように深さのある鍋で煮込み料理を作ると、鍋の中心部は酸素が少ない状態になります。この環境が、ウェルシュ菌にとっては天国なのです。
調理の加熱では、食材についていた他の多くの菌は死滅しますが、熱に強いウェルシュ菌の芽胞は生き残ります。そして、調理後に火を止めて常温で放置していると、鍋の中心部がゆっくりと冷めていく過程で、40℃~50℃というウェルシュ菌が最も増殖しやすい「至適温度帯」を長時間キープすることになります。
酸素が少なく、温度も快適。まさに絶好のコンディションを得たウェルシュ菌は、生き残った芽胞から発芽し、8~10分という驚異的なスピードで分裂・増殖していきます。そして、この菌を大量に含んだ料理を食べることで、6~18時間後に腹痛や下痢といった症状を引き起こすのです。
【緊急クイズ】ウェルシュ菌の弱点はどれ?あなたの知識をチェック!
ここで突然ですが、クイズです! 熱に強く、酸素がなくても増殖できる厄介なウェルシュ菌。そんな彼らにも弱点があります。次のうち、ウェルシュ菌対策として効果が薄いものはどれでしょうか?
- 調理した料理は、小分けにして素早く冷やす
- 食べる直前に、料理の中心部まで十分に再加熱する
- 新鮮な食材を使い、調理前によく洗浄する
…正解は、「3. 新鮮な食材を使い、調理前によく洗浄する」です。
もちろん、食材の洗浄は衛生管理の基本であり非常に重要です。しかし、ウェルシュ菌は土壌や水中など自然界に広く存在するため、食材から完全に除去することは極めて困難です。そのため、「菌はいるもの」という前提に立ち、「増やさない」「やっつける」対策を徹底することが、ウェルシュ菌対策の最も重要なポイントになるのです。1と2の対策については、後ほど詳しく解説しますね。
チャーハンやパスタが危ない?二つの顔を持つセレウス菌

次にご紹介するのは、セレウス菌です。この菌もウェルシュ菌と同様に、土の中などに広く存在する芽胞を作る菌です。セレウス菌がユニークなのは、「嘔吐型」と「下痢型」という、症状や原因食品が異なる2種類の食中毒を引き起こす点です。まさに、二つの顔を持つ食中毒菌と言えるでしょう。
嘔吐型セレウス菌食中毒
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原因食品
チャーハン、ピラフ、焼きそば、スパゲッティなど、米や小麦を原料とする作り置きの料理。
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特徴
食品中で増殖する際に、「セレウリド」という毒素を作り出します。この毒素を摂取することで、食後30分~6時間という非常に短い時間で、激しい吐き気や嘔吐を引き起こします。
下痢型セレウス菌食中毒
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原因食品
肉料理、野菜料理、スープ、弁当など、多種多様な食品。
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特徴
食品中で増殖したセレウス菌が、人の腸管内で毒素(エンテロトキシン)を作り出します。これにより、食後8~16時間で腹痛や下痢を引き起こします。症状はウェルシュ菌による食中毒とよく似ています。
セレウス菌の恐怖!加熱しても消えない「悪魔の毒素」
セレウス菌食中毒で、特に我々が警戒しなければならないのは「嘔吐型」です。 なぜなら、嘔吐の原因となる毒素「セレウリド」は、熱に対して非常に強い耐性を持っているからです。その耐性は凄まじく、120℃で30分間(126℃で 90 分:食品安全委員会)加熱しても分解されません。
これは何を意味するでしょうか? つまり、一度食品の中でこの毒素が作られてしまうと、食べる直前にどれだけ念入りに再加熱しても、食中毒を防ぐことはできないのです。作り置きしたチャーハンを温め直して「これで安心」と思っても、時すでに遅し、というケースが後を絶ちません。
この事実を知っているかどうかが、セレウス菌食中毒を防ぐ上で決定的な分かれ道となります。
あなたの厨房は大丈夫?ウェルシュ菌・セレウス菌の発生源と感染ルート
菌の正体がわかったところで、次は彼らがどのようにして私たちの厨房に忍び込み、食中毒を引き起こすのか、具体的な事例を交えながら見ていきましょう。自店の厨房を思い浮かべながら読み進めてみてください。
【事例で学ぶ】なぜあの店のカレーは危険だったのか?ウェルシュ菌の増殖シナリオ
ある繁盛している洋食店での出来事です。ランチタイムに大人気の特製ビーフシチューを、前日の営業終了後に大量に仕込み、大きな寸胴鍋に入れたまま、ガスコンロの上で一晩常温で冷ましていました。翌日、ランチのピーク前にシチューを温め直し、お客様に提供しました。
結果、そのシチューを食べた多くのお客様が、夕方から夜にかけて腹痛と下痢を訴えるという集団食中毒が発生してしまいました。
この事例のどこに問題があったのでしょうか?まさに、ウェルシュ菌が増殖するための典型的なシナリオです。
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加熱調理
シチューを煮込む過程で、他の雑菌は死滅。しかし、牛肉や野菜に付着していたウェルシュ菌の芽胞は生き残る。
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ゆっくり冷却
大量のシチューが入った寸胴鍋は、非常に冷めにくい。特に鍋の中心部は、ウェルシュ菌が最も増殖しやすい40℃~50℃の「危険温度帯」を長時間維持してしまう。
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菌の増殖
鍋の中心部の酸素が少ない環境で、生き残った芽胞が一斉に発芽。快適な温度で一晩かけて爆発的に増殖する。
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不十分な再加熱
翌朝の再加熱が、鍋の表面だけ温まり、中心部まで十分に熱が通っていなかった可能性がある。
たとえ加熱しても、増殖した菌の一部は生き残る。 -
発症
大量のウェルシュ菌を含んだシチューを食べることで、食中毒が引き起こされた。
もし、この店が調理後にシチューを浅いバットなどに小分けにして、冷蔵庫で急速に冷却していれば、この事故は防げたはずです。
【事例で学ぶ】作り置きのパスタソースが原因に?セレウス菌の潜む場所
次は、テイクアウトも行っているイタリアンレストランの事例です。ランチ用に、米粉を使ったクリームパスタソースを大量に作り、大きなボウルに入れたまま、調理台の上で数時間放置していました。注文が入るたびに、そのソースを温め直してパスタと絡めて提供していました。
しかし、そのパスタを食べたお客様から「食べてすぐに気分が悪くなり、嘔吐した」というクレームが入りました。
これは、嘔吐型セレウス菌食中毒が疑われる典型的なケースです。
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原材料への付着
米粉やその他の穀物、香辛料には、セレウス菌の芽胞が付着している可能性がある。
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調理後の放置
調理後、ソースを常温で放置したことで、生き残った芽胞が発芽。セレウス菌が増殖しやすい20℃~40℃(28~35℃:食品安全委員会)の温度帯で、菌が増殖し、同時に熱に強い毒素「セレウリド」を産生した。
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再加熱でも毒素は消えず
注文ごとにソースを加熱したが、一度作られた毒素は加熱では分解されない。
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発症
毒素を含んだパスタを食べたことで、短時間のうちに嘔吐症状が引き起こされた。
このケースでは、調理したソースを常温で放置せず、速やかに冷却・冷蔵保管することが何よりも重要でした。
意外な盲点!調理器具やスタッフの手指を介した二次汚染
ウェルシュ菌やセレウス菌は、土壌由来の菌であるため、生の肉や野菜、穀物だけでなく、調理器具や人の手指を介して食品を汚染する「二次汚染」のリスクも常に念頭に置く必要があります。
例えば
- 土のついた野菜を扱った手で、そのまま加熱後の料理に触れてしまう。
- 生の肉を切ったまな板や包丁で、消毒が不十分なまま、調理済みの食品を扱ってしまう。
- スタッフの手指の洗浄・消毒が不十分で、トイレなどから持ち込んだ菌が食品に付着してしまう。
こうした二次汚染を防ぐためには、調理工程ごとの手洗いの徹底、器具の使い分けや十分な洗浄・殺菌が不可欠です。
明日から実践!プロが教えるウェルシュ菌・セレウス菌撃退マニュアル

さて、敵の正体と弱点、そして感染ルートが明らかになりました。ここからは、これらの知識を基に、明日からすぐに厨房で実践できる具体的な対策マニュアルをご紹介します。
対策の基本原則:「つけない」「増やさない」「やっつける」の再確認
食中毒予防の三原則は、皆様もご存知の通り「つけない(清浄・分離)」「増やさない(迅速・冷却)」「やっつける(加熱・殺菌)」です。ウェルシュ菌・セレウス菌対策においても、この原則が基本となりますが、特に重要なのは「増やさない」と「やっつける」です。
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つけない
原材料からの持ち込みをゼロにするのは困難。
しかし、二次汚染を防ぐための手洗いや器具の洗浄・殺菌は徹底する。 -
増やさない
これが最も重要な対策です。 菌が増殖する「危険温度帯」をいかに短時間で通過させるかが勝負。
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やっつける
ウェルシュ菌の栄養細胞(芽胞から発芽した状態の菌)は熱に弱い。セレウス菌の毒素は熱に強い。この違いを理解した対策が必要。
ウェルシュ菌対策の決定版!「急速冷却」と「徹底的な再加熱」の極意
カレーやシチューなどの煮込み料理を守るためのポイントは2つです。
1.調理後は、何をおいても「急速冷却」!
- 大鍋のまま常温で放置するのは絶対にNGです。
- 調理後は、できるだけ速やかに、浅くて広い容器(バットなど)に小分けにしましょう。空気に触れる面積を増やすことで、熱が逃げやすくなります。
- 急いでいる場合は、容器ごと氷水や流水につけて、かき混ぜながら粗熱を取るのが非常に効果的です。
- 粗熱が取れたら、速やかに冷蔵庫または冷凍庫で保管します。目安として、2時間以内に20℃以下、6時間以内に10℃以下まで冷却することが理想です。30分以内に食品の中心温度を20℃付近又は1時間以内に中心温度を10℃位まで下げる(大量調理マニュアル)
2.提供前の「徹底的な再加熱」を忘れずに!
- 保管中に万が一、菌が増殖してしまった場合に備え、食べる直前には必ず**「中心部まで十分に」**加熱し直しましょう。
- ウェルシュ菌の栄養細胞は75℃で1分以上の加熱で死滅します。しかし、安全マージンを考え、グツグツと沸騰するまで、かき混ぜながら全体を加熱することを心がけてください。
セレウス菌対策の鍵!米飯・麺類の正しい温度管理術
熱に強い毒素を作るセレウス菌からチャーハンやパスタを守るには、とにかく菌に毒素を作らせる時間を与えない」ことが鉄則です。
米飯や麺類を調理後、常温で長時間放置しない。
- 炊き上がったご飯や茹でたパスタは、セレウス菌増殖の温床になり得ます。
- すぐに使わない場合は、ウェルシュ菌対策と同様に、小分けにして速やかに冷却し、冷蔵保管してください。
- 特に、保温ジャーでの長時間保温には注意が必要です。 保温温度が70℃以上をキープできていれば問題ありませんが、温度が下がってくると(特に60℃以下)、セレウス菌にとって好都合な環境になってしまいます。定期的に温度を確認する習慣をつけましょう。
作り置きは計画的に、必要最小限に。
- 一度毒素が作られてしまうと再加熱しても無意味、ということを常に念頭に置きましょう。
- ランチ用のチャーハンや焼きそばなども、可能な限りオーダーが入ってから調理するか、短時間で使い切れる量だけを調理し、適切に温度管理(65℃以上で保温、または10℃以下で冷蔵)することが重要です。
スタッフの健康管理と衛生教育の重要性 - 検便検査はなぜ必要?

どんなに素晴らしいマニュアルがあっても、それを実行するのは「人」です。スタッフ一人ひとりの衛生意識が、お店の安全レベルを決定します。
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定期的な衛生教育
なぜ手洗いが必要なのか、なぜ急速冷却が重要なのか。その「理由」をセットで教えることで、スタッフの行動は変わります。「残暑の時期はウェルシュ菌とセレウス菌に注意!」といったミーティングを定期的に開くのも効果的です。
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健康状態のチェック
下痢や嘔吐、手指に傷があるスタッフを調理に従事させないことは、食中毒予防の絶対条件です。
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検便検査の実施
スタッフが食中毒菌を保有していても、自覚症状がない「健康保菌者」であるケースは少なくありません。特に、サルモネラ菌や腸管出血性大腸菌(O157)などは、保菌者から食品への汚染が重大な事故につながります。定期的な検便検査は、目に見えないリスクを発見し、食中毒事故を未然に防ぐための、事業者として果たすべき重要な責任です。
見えないリスクを可視化する!プロによる衛生管理のススメ
日々の衛生管理を徹底していても、「本当に自分の店の厨房は安全なのだろうか?」と不安に感じることはありませんか?その不安を解消し、より高いレベルの安全性を確保するために、科学的な視点を取り入れることをお勧めします。
「ウチは大丈夫」は危険信号?定期的な拭き取り検査のすすめ
目に見えない菌の存在を確認する最も効果的な方法が「拭き取り検査」です。まな板、包丁、冷蔵庫の取っ手、スタッフの手指などを専門のキットで拭き取り、どのような菌がどれくらい存在するかを検査します。
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衛生状態の「成績表」
検査結果は、日々の清掃や殺菌が正しく行われているかの客観的な指標となります。予想外の場所から菌が検出されれば、そこが衛生管理の弱点であると特定できます。
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スタッフの意識向上
「検査がある」という事実が、スタッフの衛生意識を高く保つ動機付けにもなります。
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HACCP対応
HACCPに沿った衛生管理においても、拭き取り検査による衛生状態の検証は非常に重要なプロセスです。
最近では、専門の検査員が訪問しなくても、宅配便で手軽に実施できる拭き取り検査サービスもあります。こうしたサービスを活用し、自店の衛生レベルを定期的にチェックしてみてはいかがでしょうか。
その賞味期限、本当に安全ですか?科学的根拠に基づいた期限設定の重要性
テイクアウト商品やネット通販で加工食品を販売する場合、「賞味期限」や「消費期限」の設定は事業者の責任において行わなければなりません。
「これまでの経験で、大体3日くらいは大丈夫だろう」といった**勘や経験だけに頼った期限設定は非常に危険**です。特に、ウェルシュ菌やセレウス菌が繁殖しやすい煮込み料理や米飯類では、安全性を科学的に検証することが不可欠です。
食品細菌検査や理化学検査を通じて、製造した食品が時間経過と共にどのように変化するかをデータで確認し、安全係数を考慮した上で適切な期限を設定する必要があります。これは、お客様の安全を守ることはもちろん、万が一のクレームや事故が発生した際に、自社の正当性を証明するための重要な根拠ともなります。
万が一の事態に備える - 異物混入やクレーム対応の初動
細心の注意を払っていても、残念ながらクレームがゼロになることはありません。「髪の毛が入っていた」「プラスチック片のようなものがあった」といった異物混入のクレームは、初期対応が非常に重要です。
そんな時、その異物が何であるかを科学的に特定する「異物検査」は、原因究明と再発防止策の策定に絶大な効果を発揮します。虫なのか、カビなのか、プラスチックなのか、金属なのか。正体を明らかにすることで、どの工程に問題があったのかを冷静に分析し、お客様へも誠実な説明が可能になります。
まとめ:食の安全を守り、お客様からの信頼を勝ち取るために

今回は、残暑の季節に特に注意が必要な「ウェルシュ菌」と「セレウス菌」について、その特徴から具体的な対策までを詳しく解説してきました。
ウェルシュ菌は、大量調理の煮込み料理で発生しやすく、対策の鍵は「急速冷却」と「徹底的な再加熱」。
セレウス菌は、作り置きの米飯・麺類で発生しやすく、一度作られた毒素は加熱しても消えないため、菌を増やさない温度管理」が絶対条件。
これらの対策は、少しの手間と知識があれば、どの厨房でもすぐに実践できることばかりです。しかし、その少しの手間を惜しむかどうかが、お客様の健康とお店の未来を大きく左右します。
食中毒事故は、売上の損失だけでなく、大切に築き上げてきたお客様からの信頼を一瞬で失墜させてしまう、最も恐ろしい経営リスクの一つです。
涼しい秋風に気を緩めることなく、もう一度厨房の衛生管理体制を見直してみてください。そして、日々の努力が本当に正しいかを確認するために、拭き取り検査や期限設定のための細菌検査といった科学的なアプローチを取り入れることも、これからの時代に選ばれ続けるお店になるための重要な投資です。
食の安全という土台の上にこそ、お客様の「おいしい!」という笑顔と、お店の繁栄は築かれます。このコラムが、皆様の安全で美味しい食づくりのお役に立てることを心から願っています。


